『十三夜』 『すぐ、来い。待ってるから』 受信したメールは、命令口調の、でも画面の向こうのあいつがすぐ想像できるような。 そんな文章だった。 着信音だって変えてない。他の人と一緒。 特別にはしない。期待したくないから。 それでも鏡の前で、自分の姿をチェックしていく私はきっと、すごくバカなんだろう。 あいつが待ってる場所はわかってる。 私の家の近くの土手だ。 急ぐことはない。 歩いたって、きっとウルトラマンが地球にいられるくらいの時間しかかからない。 部屋着のTシャツをベッドの上に脱ぎ捨て、クローゼットから小さな花がたくさんプリントされた 半袖のブラウスを取り出した。 てろてろとゆっくりと歩く。 夏が近い、夜の空にぽっかりと浮かぶ十三夜の月。 土手へ着くと、水門近くにぺたりと座っているあいつがいた。 水色のTシャツ。いつものジーンズ、去年の夏と変わらないサンダル。 広い広い、その背中。 「おせーぞ」 私が来た気配を感じたのか、後ろをふりむきながら、あいつが言う。 「メール受信してから、10分もたってないんだけど?」 「カップラーメンが3つもできるじゃねーか」 この即物的男め。 何でも食べ物に結びつければいいってもんじゃないっていうの。 「で?なんかあった?」 やつと同じようにぺたりと腰を下ろしながら、聞いてみる。 大体、私をここに呼び出すときは何かあったときなんだ。 「や、べつに」 「ふーん」 何も言わないんだね。 でも、わかってた。 言い出せないのもわかってる。 ええかっこしいの、小心者。 だから、私も何も言わない。 ただ黙って隣に座っている。 私にできることはそれぐらいだと思うし、それ以上踏み込めないから。 踏み込ませない、何かがあるから。 「俺、高校時代、毎日この土手チャリこいで学校行ってたんだよな」 伸びをしながら、懐かしむ口調で言うあいつは、高校生の顔に戻っていた。 「うん、知ってる」 「よく知ってんな」 だって、そろそろ土手通るかなって時間に家を出て。 会えるようにって願いながら私も自転車こいでたから。 あの頃から変わらない、この関係。 まるで十三夜の月みたいに、あともう少しで満ちそうなのにまだ足りない。 いつか満月になる日が来るんだろうか。 それともこのまま新月のようにまったく見えなくなってしまうんだろうか。 隣に座る、あいつが私の肩にそっと頭を乗せてきた。 ぽんぽんとその頭をなでてあげる。 確かに伝わる体温。 きっと、多分この月は変化していく。確実に。正確に。 だけど、今確かに隣にある温もりがいとおしいから。 だから、十三夜の月を大切にしていこう。 満月の日も、新月のときも。 いつでもこの場所に呼び出していいよ。 |
えーと、雰囲気でも伝わればいいです(滝汗) あともう少しどうにかすればうまくいきそうなのに、うまくいかないっていう 二人を十三夜の月にみたてて・・・っていう当初の目論見が・・・( ̄▽ ̄; >>Novels top |