『Loving you』 今年できたばかりの観覧車が、虹色に変わっていくのをぼんやりと見つめていた。 昼間は観覧車とは名ばかりで、市街地の景色も見えないと噂で聞いたことがあるけれど、 こうして夜見ると、すぐ隣に建っている巨大ショッピングセンターの明かりとセットになって ライトアップされるのは、とてもキレイだ。 週末ということもあって、ショッピングセンターの駐車場は満車状態だった。 様々なショップの袋を抱えたカップルや家族連れの姿が、店の中にも外にもあふれている。 「これから、どうする?」 車のエンジンをかけながら、彼が口を開いた。 車に乗り込むまで繋がれていた左手は、今ハンドルを握っている。 え?と右横を向くと、いつもと変わらない彼の横顔が、そこにあった。 「ああ・・・うん、そうだね・・・」 曖昧に相槌をうつ。 これからどうする?なんて。 もうとっくに帰らなきゃいけない時間だってことは、車についているデジタル時計を見なくても ちゃんと分かってる。 帰りたくない、なんて言ったら、一体どういう顔をするんだろう。 膝の上に置いた手をぎゅっと握り締めたままの私に、彼が苦笑する。 「少し走って帰る?」 「あー、うん。そうだね」 同じ言葉を繰り返してしまう。 一番言いたいことが言えない。 もっとずっと一緒にいたいんだけど。 -----帰りたく、ないんだけど。 帰り際に買った、スターバックスのコーヒーは、まだ十分熱い。 甘くって、カロリーが気になるけれど大好きなキャラメルマキアート。 外の空気は冷たかったけれど、車の中は風が吹かないぶん、暖かい。 彼の左手が、ふっとハンドルから離れヒーターのボタンを押した。 「寒くない?」 「ちょっとね」 彼の気遣いが嬉しくて、頬が緩んだ。 昨日まで暖かかったのが嘘のように、今日は冷え込んでいる。 こんなに寒かったら、雪でも降ってくれたらいいのに。 ここは、滅多に雪が降らない。 降るとしても本当に極寒の、ほんの一時期だけだ。 ふわん、と暖房の暖かい空気が足元に当たる。 「暖房の人工的な暖かさが嫌い」な彼は、滅多に暖房を入れないのだそうだ。 それでも寒がりな私が助手席に乗っているときは暖房を入れてくれる。 体ではなく足元を中心に吹いてくる暖房は、彼の拘りなのかもしれない。 コーヒーを一口、口に含むと残りはドリンクホルダーに差し込む。 付き合うようになって、取り付けた二つ目のドリンクホルダー。 最初のデートのとき、彼の車には一つしかドリンクホルダーがなかった。 ツヤ消しの黒いドリンクホルダー。 ----友達とか乗せるとき、不便じゃないの? そう尋ねると、 「そりゃ不便なときだってあるけどさ。最近はペットボトル買うヤツが多いし。 それにそんなに友達を乗せる機会もないし・・・必要に迫られてないのは買わない主義なんだよ」 と、頭を掻いた。 ふうん。 そういうものなの? だから、3度目のデートの時、助手席側に二つ目のドリンクホルダーを見つけたときは嬉しかった。 彼は、私が拗ねたように思って付けてくれたのかもしれないけど。 -----必要なんだって。 これからも隣に座っていいんだって。 今日は、何回目のデートになるんだろう。 もう両手じゃ足りない。 きっと、あなたへの想いも。 車は、高速と平行する道路を郊外に向かって走り出す。 エンジンの回転数が上がるように、私の心拍数も上がりだす。 観覧車はどんどん小さくなって、フロントガラスからサイドミラー、そして今は 後ろを振り向かないと見えなくなってしまった。 どうしよう。言ってみようか。 言っても、いいんだろうか。 「あの・・・行きたいところがあるんだけど」 喉の奥から出した声は、なんだか自分のものじゃないみたいだった。 少し掠れてしまったような気がして、ドリンクホルダーからコーヒーカップを手に取った。 さっきより、ぬるくなってしまった甘いコーヒー。 コーヒーを飲んで気持ちを落ち着けよう。 「ん?」 どこに行きたいの? 彼の目は、そう尋ねている。 行きたいところなら、-----ある。 もっともっと、あなたの近く。 心臓の音が聞えるくらい、もっと近く。 右手を伸ばして、ギアの上にある彼の手に、自分のそれを重ねた。 冷たい自分の手と違って、彼の手は驚くほどに暖かい。 ふっ、と彼は苦笑すると、まるで子供を安心させるように私の手を包み込んだ。 ・・・ずるいよ。もう。 私の言いたいこと、分かってるみたいで、ずるい。 だけど、その暖かさに負けてしまおう。 「・・・あのね。今日は・・・」 |
あああ。久しぶりに書いたんで、感覚がワカラナイ(汗) 突っ走りすぎだよ、私(爆死)。 決して実話じゃありません。・・・って誰も聞いてないか。アハ。 物語の場所は、読む人が読んだらすぐに分かりそうですな。 >>Novels top |