『解けない問題』 あたしたち受験生を乗せたバスは、大学正門を抜けると立体交差の下をくぐり国道10号線に出た。 大学センター入試。 最近は国立だけじゃなくて私立もセンター試験取り入れるところが多いからって 先生が受けろ受けろとうるさい。 そんなわけで私立専願の私も学校がチャーターした大型バスに揺られているというわけだ。 2日にわたる試験も、今日で終わり。 何だか気が抜けてしまった。 別に国立受験するわけじゃないし、とりあえず滑り止めは受かってるし。 まあいっかぁなんてお気楽極楽で受けたせいか試験のデキはイマイチだったような気がする。 でも、隣に座る矢口はどうだったんだろう。 ふと窓際に座るクラスメートの顔を見つめた。 彼も試験が終わって気が抜けたのだろう。 窓から陽がふりそそぐ中、シートに背を預け、腕を組むようにして目を閉じている。 真っ黒な瞳は、一重のまぶたに隠されていて見えない。 「矢口、矢口」 「ああ、何?」 あたしの問いかけに、矢口は半分だけ目を開けて応えた。 どうやら目を閉じていただけでなく、本当に眠っていたらしい。 矢口の志望しているのは、県外の、それもかなり難易度の高い大学だ。 きっと、今までの疲れが一気に出ているんだろう。 「試験のでき、どうやった?」 トートバッグからムースポッキーの箱をを取り出し、矢口にハイ、と渡した。 「・・・オマエは。試験におやつなんか持ってくんなよ。遠足じゃあるまいし」 「だってお気楽極楽受験生やもん」 あー。いいっすねぇ。1つでも受かってるやつは。 憎まれ口をたたきながらも、ポッキーはしっかりと受け取っている矢口が何だかカワイくて あたしはくすくすと笑ってしまった。 「あー、試験のデキなぁ・・・まあまあ」 滅多に自分をいいように評価しない矢口が「まあまあ」という事は、きっとかなり自信があるんだろう。 「ふーん」 さりげなく言ってみたけれど、心の中は「ふーん」どころじゃなかった。 試験ができたってことは、矢口が県外に行ってしまうということだ。 そしてあたしにはそれを止めるすべも権利もない。 だって、あたしはただのクラスメートだから。 「なあ」 「何よ」 矢口は、ポッキーをまるで指揮棒のように振っている。 でもなぁ、と呟くと、ポッキーをぱくりと口に入れた。 しばらくはもぐもぐと口を動かしていたけれど、意を決したようにごくんとポッキーを飲み込んだ。 「一つだけどうしても解けない問題が残っちょんのや。・・・関係式、みたいなものが」 「なにそれ」 「このまま何もせんほうがいいんか、それとも一歩進んだほうがいいんか」 「数学の問題?」 「んなわけねぇやろ」 ぺし、と頭をはたかれた。 ------ わかってるよ。 矢口の目は、怖いくらい真剣だもの。 お気楽極楽な鈍いあたしにだって、わかってしまうくらいに。 「この問題はおまえやないと解けんのや。おまえが答えをくれんと・・・困るんや」 どっちがいい? 矢口の目が尋ねてくる。 そんなの。 決まってるじゃない。 「・・・・長期休みは、帰ってきてな。絶対。約束やけん。・・・待ってる、から」 |
センター試験、お疲れさまでした。 私も受けたなぁ・・・何年前だよ(遠い目) ってゆーか、学ランいいっすね。 うちの高校は学ランだったんだけど、最近ブレザーの高校が多くて悲しいです(←え)。 >>Novels top |