『雪の日』



「見てみてー。カッちゃん。どんどん降ってくるよ!」
窓の向こうから早季子の声がして、俺は勢いよくカーテンを開けた。
予想どおり、車一台通らない道の真中で、幼馴染みの早季子がサンタと同じ色の ダッフルコートを着て、雪とたわむれている。
一体いつからそうやっていたのだろう。早季子の髪はすでにしっとりと濡れていた。
「お前なー、一体今何時だと・・・」
カーテンと同じように窓ガラスも開けた。
ぴう、と冷たい空気が僕の鼻先をかすめて部屋の中に入り込む。
覚悟していたけれど、やっぱり、寒い。
ベッドの横に置いてある目覚し時計を覗き込むと、針は5時40分を指している。
もちろん夕方ではなく、朝の。

「えー?だってカッちゃんもう起きてたでしょう?」
早季子はニコニコ笑いながら、2階にいる俺を見上げ、雪玉を投げてくる。
雪玉は俺まで届かず、家の壁にぶつかって粉々になった。
「わっ、バカ。母さんたちが起きるだろ」
「ねねね、カッちゃんも遊ぼうよ。たーのしいよぉ」
新しい雪玉を作りながら、言う。
きっとまた、俺にぶつける気なんだ。
「バカ言え。俺は徹夜で勉強してたんだよ。これから昼まで寝るの! 推薦で大学決まったお前とは違うんだよ!」
そう、1週間後にセンター試験を控えて徹夜で勉強していた俺にとって 早朝で、しかもこんな雪の中外に出ろなんて拷問に等しい。
「暖かくして出てくれば大丈夫だよー。風邪引かないよ」
そう言われて、改めて早季子のナリを見てみた。
赤いダッフルコートに、今流行りの長目のマフラー。辛子色の。
そして、雪の模様が入った手袋。
確かに暖かそうだ。
でも、お前の口元からもれる息はかなり白いぞ?ホントに寒くないのかよ?
「一緒に雪だるま作ろうよ!昔みたいにカッちゃん大きいの作ってよ」

・・・あー、わかりましたよ。
俺は机の上の参考書をぱたりと閉じた。
結局、早季子には勝てないんだ。昔から。

推薦でサッサと東京の大学に進学を決めたお前と違って俺は大変なんだよ。
これからセンター入試だろ?私大の一般入試だろ?
風邪引いてらんないんだよ。

それもこれも、お前を追いかけて東京に行くためなのに。

「・・・大学落ちたらお前のせいだかんな」
「えー?何ー?聞えないよう」
「うるせっ、そこで待っとけつったんだよ!」
「うん!待ってる!」

ああクソッ。カワイイ顔して笑うなっ。
例え40度の熱が出たとしても、絶対東京の大学に受かってやる!
今年買ったばかりの黒のダウンジャケットを手に取り、俺は部屋のドアを開けた。


全国的に雪が降る、という天気予報から思いついた話。
あと、従兄弟が今年受験生ということで(^^;

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