暴れん坊JOJO/番外
大人のわがまま
仗助はうつぶせていた姿勢のまま、身じろぐと目をこすった。
昨夜の名残のわずかな気だるさと幸福感。どこかすっきりとした単純な「男の体」にため息のような息をつく。と。
その手がぴくりと止まり、いぶかしげに閉じていた目が開かれる。
寝起きのぼやけた視界に上品に光る金属。
目をこすったときの、普段無い違和感の正体が。
数秒固まった仗助の体が、がばっと音がしそうなほどの勢いで起き上がった。
目の前にかざされた左手の。
薬指に光るリング。
――――― マジかよ?!
昨夜親しい仲間や家族に祝ってもらった25歳の誕生日には、もちろんそんなものは存在しなかった。
こんなイヤガラセというには、あまりに高価な(シンプルだがあきらかにファッションリングという域ではない、プラチナのリングだ)シロモノ。
そして、このベッドにいるのは、自分の他には承太郎しかいない。
おそるおそる隣を伺うと、かわらぬ静かな呼吸に上下する、たくましい胸が半分のぞいた承太郎が眠っている。
仗助は、自分の手と横の寝顔をかわるがわる眺めた。
――――― リングなんてェモン。
そんなベタな形式に習うような人だとは思わなかった。そりゃ、奥さんとはちゃんと法律としても認められた婚姻なわけで、指輪だって当たり前なんだろうけど。……大体何でいまさら。
そっとリングに触れる。
――――― もう一生縁が無いと思ってた。
承太郎への気持ちを認めた時に、もうこういったものは全部諦めたのにな。仗助はため息をついた。
「外すんじゃねぇゼ」
突然かけられた声に仗助の体がびくりと震える。
仗助があらためて承太郎を見ると、開かれた目が仗助を見上げていた。
「なんスか?コレ」
「さぁな」
「……いつまで?」
「心臓が止まるまでだ」
そこの指はそういう意味だ。といいながら、手を引く承太郎にまかせていると、リングのはまった指をそれごと噛まれる。
「とっくに……」
つぶやいた仗助の声は、体をたどる承太郎の手に途切れさせられた。
―――――― 出口の無い輪(リング)など、捕らえる以外に理由などあるか。
承太郎は仗助に悟られないように口の端で自嘲した。
いわゆる適齢期を迎える仗助が、近頃本気で周りの独身女性たちに狙われてるということに、本人は自覚が無いらしい。
その視線に見せ付けるつもりで、嵌めた所有証だ。
男の嫉妬で焼かれたプラチナだ。さぞかし固いだろうな。
承太郎はしばらく味あわされたいらつきを、晴らしてくれる小さなリングに歯をたてた。
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