暴れん坊JOJO/番外
8年後
東方仗助(29)
一時期海外修行にいったり、モデルをやったりしましたが、内縁結婚を機に杜王町に 愛の巣 美容室『JOJO Diamond』を開店。エンゲージリングらしきものをしているのに、奥さんらしき女性の影がなく、ひそかに恋人死亡説が流布。未婚で未亡人。
実のところ相手はゼロ距離射撃でも死にません。
空条承太郎(42)
バツイチイケメン海洋学者。バツイチなのに、リングをつけていることに誰がつっこめるだろうか。
独占結婚を機にホームをアメリカから日本に。日本の大学としては異例な若さで教授になりました。
だってジョースターだから。
空条徐倫(13)
承太郎の前妻との娘。今は実母夫婦とドバイで生活する中学生。休暇になると杜王町に遊びに来る。
ストーンフリーはすでに発現済み。(ただし未だnotパワー型)
しとんしとん、と曇った空から雨粒がおちて地面を濡らす。
濡れるテラスってのは、どっか寂しい風景だ。けれど、そのテーブルにでん、と鉢植えの紫陽花が鎮座ましましてる。その盛り具合ときたらいっそ滑稽なくらいだ。
深く濃い紫色の花。
元々曇り空の多い地方だけど、梅雨ってのはまたちょっと重い。
俺の誕生日の時期ってのは、その梅雨に入るんだか、どうだかってときだ。
今年はちょっと早めにシーズンインしている。
「いいわねぇ、紫陽花。すごくいい色」
「ウチのはフラワーニジムラですよ。どうぞごひいきに」
手早くロットを巻きながら、鏡越しに常連さんへ笑いかける。商魂たくましいわね、と笑われるのに、肩をすくめる。
「よく言われるっス、がめついって。虹村に広告費請求したときも」
大ウケしてくれる客に、ぱちんとウインクをする。
するとまるでタイミングを計ったように、テラスに向かって開けられていた窓から破壊音が聞こえて、思わず手を止めた。
「何かしら?ガラス?」
すいません、とため息混じりに謝って、気にしないでください。と、作業を再開する。
「はねっかえりが帰ってきてるんスよ」
「ああ、姪っ子さんね? ジョーリンちゃん。留学しているんでしょ?」
ははは、とあいまいに笑う。
ちょっと年の離れたバツ1きょうだい(『の息子』は省略)の娘ってことになってるらしい徐倫。昔っから物怖じしない性格だし(承太郎さんの子どもだもんな、言うまでもねぇか)、女の子らしく俺の仕事に興味津々で、店にも顔を出してたから常連客にはかわいがられてた。ちょっとした看板娘ってやつ?
今はおふくろさんのいるドバイに住んでいるんだけど、いつの間にか留学ってことになっているのは、ちょいちょい遊びに戻ってきているからだろう。
あとはアレだな。承太郎さんが大学教授なんて肩書きがあるせいだ。
小学生から留学ってあり?って感じだけど、インテリマジックってやつ?
インテリの子はインテリみたいな?
だいたいさぁ、女の人って『教授』とかって弱いよな。
まあ、40代で教授な上に、イケメン。しかも独身。
そりゃ、いつの間にそんなことまで?!みたいな情報ツウだ。しかも、好意的脚色がたっぷりだ。
いいけどね、なんか都合よく俺たち不思議家族に納得してるみたいだし。
「じゃ、あっためますね」
お客さんをセットすると、俺はことわって2階に上がった。
ひとつ深呼吸をして、リビングのドアを開ける。心の準備ってのは必要だ。この親子に関しては。とはいっても、あんまり準備の甲斐もないってこともあるけどな。
俺は2歩目でがっくりと膝をついた。
「グレート。どーしたら、こんなになるんスかね……」
「あ!仗助!!このクソ親父がっ!」
ぜいぜい息をきらしてにらみ合う、蛇とマングース。息をきらしてんのは徐倫だけだけど。
ちょー、ヨユーな顔でコーヒーをのんでいる承太郎さんは、台風の目に座っているようなもんだ。イスに座っているけど、ダイニングテーブルは2メートルくらい離れたところで、傾いている。片脚が折れてるなあれは。高けぇのに!
フローリングの床には食器が割れていて、どうやらこれが窓から漏れた音らしい。ベランダにまで残骸が行っている。あとはいろんなものが……いろんなものが渦巻いてる。
ダイニングテーブルの転倒が店までつたわらないあたり、我が家の防音構造はばっちりだな。
俺は思わず、ふふふ、と笑ってちょっとずれた所に意識を向けてみた。
ぷっつり、いっちまわないように。
「俺はなにもしちゃぁいないがな」
「それが余計にあおってんでしょ、徐倫を」
「親父が仗助の誕生日はあたし抜きでやるって!ズルイ!!」
「今夜だけだ。あとは好きにすればいい。だいたい事前に連絡しておけばよかっただろうに」
「驚かせたかったんだモン!!」
「あーー」
そうだ。今夜はちょっと贅沢をして、杜王町じゃない外の高級ホテルディナーを予約したんだよ。もちろんその後の部屋も。インペリアルスイートだぜぃ!
すっげーベタなシュチェーションだけど、返ってやったことがなかったから、おねだりしたんだ。けっこー、そーゆーベタなの好きだし、俺。
そしたら、サプライズで連絡無しに徐倫が今日になって帰って来たって訳。
いや、すげー嬉しいんだ。だって俺を祝いたくて、夏休み前だってのに来てくれたんだぜ。かわいいじゃん。知ってるけど!
ディナーは何とかなると思う。思うけど問題はその後だ。
だ、だってよ〜。やっぱ思いっきり下ゴゴロありだもんな、俺だって男だし。
ホテルとかだとさ〜、なんつーか、家の寝室とまたちがくってハジけられるしさ。家だと後で現場見て、思い出して七転八倒しそうなコトとかさ!
なんて……まさか徐倫づれだと無理だもんな。
「親父のいじわるーー!!」
「いや、いじわるってわけじゃ……」
「20年早ぇ。それと親父じゃなくて『お父様』と呼べ」
「承太郎さんも煽らな……」
「くらえ!愛の金縛り!」
「え? 何?」
ストーンフリーの糸がイスと承太郎さんをぐるぐるとまきつく。
「ほどかないもん! 仗助と出かけられないっしょ! 糸を切ったらあたしが痛いんだからね!!」
やや口を開いて固まっていた俺は、ふらりと壁にもたれかかった。
要は承太郎さんが徐倫に手をあげないってことな。それで『愛の』って。
……ガキってすげぇな。いろんな意味で。
承太郎さんがカップを持ち上げたままの姿勢で、ため息をついた。
それに俺はびくっと緊張した。なんか今のため息、嫌な予感が。
「徐倫。スタンド能力を、他人の意思を強制するために使うことだけはするな、と俺は言ったな?」
「親父が悪いんだもん!」
「それとこれとは別の問題だ。お前も約束したはずだ。約束は守れ」
「ちょ、まって! 承……」
「スタープラチナ ザ・ワールド」
あわてて承太郎さんを止めようとのばしかけたまま、すべての動作が静止した。
「仗助、やはり見えているな」
俺は意思があるにもかかわらず、動かない体の居心地の悪さに心のなかで呻いた。うえぇ、これ気持ちワリ。まさに金縛りって感じ?
そういえばだいぶ前に承太郎さんが、そんなこと話してたっけ。俺の能力はスタンド能力の中じゃ、かなり異色なタイプだけど、大元はスタープラチナと同じパワー型だって。
だから成長次第で、時間に影響できるかも、って話だったっけ。
だけど俺はけっこう早い時期にクレイジーDの能力が今のレベルに達していたし、完成形に近いから無理じゃないかな、と思っていたんだけど。
てか、試してもなかったな。
そっかー、あれから10年、ちっとは成長の余地があったんだな。俺にも。
「動かすのは無理か」
そっすね、たぶんこれくらいが限度っすかねぇ。
なんて、心ン中で返事した次の瞬間ぎょっとした。承太郎さんが、無造作にストーンフリーの糸を切断して立ち上がったからだ。
そうしてのばしかけて宙に止められた、俺の手をつかんで引っ張られる。
「すまんな。頼む」
引っ張られた俺の体が承太郎さんの胸にぶつかる。時間が動き出すのと、俺のクレイジーDの射程範囲に達した徐倫を『治す』のと、ほとんど同時だった。
「な、なんてことスンです……」
バクバクする心臓がうるさい。承太郎さんのシャツを握った手がこわばってる。
徐倫はまばたいた。
縛りつけたはずの承太郎さんが立ち上がって、離れた場所にいた俺を抱きとめている。ストーンフリーの糸はイスにからみついたままだ。
くしゃりと、表情がゆがむ。ちゃんと状況は判じきれてないけど、承太郎さんが自分に対して『手をあげるも同然のこと』をしたってのは察せられたんだろう。
そして、スタンドの絶対的な力の差も。それは本能的なおそれにも似た感覚。
俺はしがみついたままの承太郎さんごと、床にひざをついた。
けげんそうな承太郎さんを無視して、徐倫をひっぱりよせる。軽くふたりの頭がぶつかった。
「じゃ、そういうことで。俺、店に戻りますから、ふたりでかたしといてくださいね」
俺は立ち上がった。ふと目についた破壊されたマグの取っ手を拾い上げる。これおれのお気に入りなのに。傷モノにしてくれちゃって。
散らばった破片が引き寄せられて、再生していく。お気に入りのアメリカ企業のロゴとキャラクターのシルエット柄がつなぎ合わさる。
「イテっ、動くな親父!」
立ち上がろうとした承太郎さんが、目を見開いて徐倫を見る。正確に言えば、自分へとつながる徐倫の髪を。
「ふたりの髪をひとつに『治し』ときましたから、仲良く協力してね。ケンカ両成敗ってヤツっスよ」
「まて、仗助」
「仗助!!」
たったひとつだけ『治し』たマグを持ったまま、無視して閉めたドアの向こうから悲鳴が聞こえた。
***
今日はもともと夜の予定のために、早仕舞いのつもりでいた。最後のお客さんを送り出し、『本日午後・予約のみ』と書かれたボードをしまい、ドアにCLOSEの札を下げる。
少しはかたずけたかなぁ?と、2階のリビングに戻った。
「仗助!トイレ!トイレ!」
髪を元にもどしてやると、徐倫がぱたぱたとトイレにかけこんだ。思わず見送った後ろから引き倒されて、床に座り込んだ承太郎さんの上にしりもちをつく。
「仗助、てめぇ……」
「やーん、怒んないでくださいって!ね?仲直りできたんでショ?」
承太郎さんの肩に、後ろ頭をあずけて、至近距離で目を見上げる。ね?と、わざわざ甘えた声でもう一度お伺いをたてると、承太郎さんは視線をそらしてため息をついた。
「ホテルに電話しときましたから。3人で行きましょ」
「いいのか?」
「はい。でね、承太郎さん、前に買っといた徐倫の」
「ああ」
「あれ着せて、3人で写真とりたいっス。ちゃんとしたヤツ。写真屋で」
「……そうか、ホテルに行く途中で寄るか」
「やった!」
承太郎さんの指が、俺の顔の輪郭をなぞって持ち上げられた。ふってくる唇を、唇で受け止める。軽く何度かふれあって、最後にぺろりと舐められた。そんだけでも体が震えそうになる。
「あー、きもちい」
テレ隠しで、わざわざ口にだして立ち上がると、苦笑しながら承太郎さんも立ち上がった。
あー、もーこの人、油断ならねーんだから。俺、顔赤くなったりしてねぇよな?
周りを見回すと、とりあえず、って感じにはかたずいてた。あんな、二人羽織みてぇな状況で頑張った方じゃね?
ちょうど戻ってきた徐倫に声をかける。
「髪セットしようぜ。おめかししてホテルだ。インペリアルスウィート!」
「いいの?仗助」
「もっちろん」
おそるおそる、といった感じで徐倫は承太郎さんを見上げた。うなずく承太郎さんに徐倫の顔がほころぶ。
「ごめんね?仗助」
「いや、ありがとうな。徐倫。俺祝ってもらえてすごく嬉しいから」
「うん!」
「承太郎さんと仲直りした?」
「うん。今回は許してやった。……パパも徐倫のこと許してくれるって」
「そっか」
徐倫がのびあがって、俺の頬にキスをする。おめでとう、仗助。
「サンキュ」
ぎゅっと徐倫をだきしめて、その向こうに立つ承太郎さんに俺は笑いかけた。
Fanfiction2 MENU