Eat with you on the weekend

7. We are all innocent つづき


 
「このばか弟子!どうすんですか!」
「あんたの部屋までだ、トヘロスとか使えないのか?」
「敵モンスターか!ダンジョンじゃないんですよ!」
「じゃあメダパニ?」
「惑わせてどうする!」
「透明マントとかないのか?好きだろう、そういうあやしげな道具」
「そんな都合よくポケットから道具が飛び出るわけ無いでしょ!」

持ってないとは言わないんだな、ヒュンケルは自分の首筋をなでた。
場所はパプニカの城内、アバンの専用執務室。書記官は退出済みの、防音もばっちりな部屋のソファでふたりは初体験を済ませたところだ。
ヒュンケルはズボンだけの半裸で、アバンは乱れた服を取り繕いつつ、身体の違和感に微妙な居心地の悪さを感じて、その原因を潤んだ目で睨みつけていた。
一応場所の移動を自分は提案したのに、という抗議の視線らしいが、あんな下半身の状態で提案されてもどうにもならない、というのがヒュンケルの主張だった。
だいたい軽く血の気の上がった頬で、普段トレードマークのメガネも無く潤んだ目で睨まれたところで、最中を思い出すだけで威圧の効果はゼロだと言ってやるべきか。
ふたたびもたげそうになる欲望に内心舌打ちをして、さっさとアバンの寝室へ移動しよう、と面倒なやり取りを放棄した。もともと面倒見がいい方ではない。それよりも一度解禁してしまった欲をなだめる方がよほど難しく、解禁された以上、さほど我慢が必要とも思えないヒュンケルだった。

「わかった、わかった」

少し前まで、ヒュンケルのシャツだった今はふたりの体液やらなにやらを受けて、とても着れるものではない布の塊をアバンに渡す。
とっさに受け取ってしまったアバンが露骨に顔をしかめた。

「置いていくわけにもいかないだろう」

ヒュンケルは放り出さないよう釘をさしながら、アバンを抱え上げた。

「えっ!ちょ、ちょっと」
「おとなしくしてくれ、ほら、ドアを開けろ」

ぎゃー、とかなんとか喚くアバンを、いわゆるお姫様抱っこで抱えあげる。ふたりともいい上背のある成人男子である。それなりのボリュームがありありと存在感を主張している。
嫌だ、ぜったい嫌だ!というアバンに、蹴り開けるぞ?とヒュンケルが答えると、アバンは悪寒に震えてドアノブに嫌々手をかけた。
涙目でおびえるアバンというのも、めったに見られなくていいな、とヒュンケルは思ったが、懸命にも声には出さなかった。





アバンはぐったりと見慣れたベッドになついた。
酷い。
どんなダンジョンでもこんなにドキドキしたことはなかった。
執務室からアバンが私室として割り当てられている、別棟の部屋までほんの2、3分のはずだったが、アバンの心臓はハムスター並みの速さでこの不遇な状況に抗議していた。
1度若い男の欲望を受け入れた場所は、それ自体の熱い感覚は去っていたが、その存在は不自然に開かされた違和感としてアバンに知らしめている。
まだ挿されているような気がする。
アバンは近づいて来たヒュンケルに、汚れたシャツを投げつけた。

「何が小指だ!」
「……ボストロールの小指くらいか?」

思わずぎゃー、と悲鳴をあげつつ、起き上がってヒュンケルをなぐりつけようとしたが、あっさり手をとられてベッドに縫い付けられた。
どんなサイズのトロルだ!っていうか、遭遇したとき記憶が蘇ったらどうしてくれる!
あまりにストレスな移動に、やつあたりしているという自覚のあったアバンも、この返事にかけらも申し訳なさは残らなかった。

「誰にも会わなかったんだからいいだろう」
「絶対に見られていないとは限らないでしょう」
「大丈夫だ、少なくとも誰と誰かと判別できるほどの距離ではいないさ」

ヒュンケルが断言するのだから、そうなんだろうと思うものの、素直にうなずけないアバンだった。
自分をのぞきこむ色味に乏しい瞳を見上げる。
淡いアッシュグレーの瞳で、その瞳孔だけが深い紫紺の色をしている。その大型の猫科の猛獣を連想させる視線だけでもおびえる人間は多いというのに、つりあがり気味の目をよく眇めるせいで、なおさらこわもてに見せている。
本当は酷い近眼なのだ。
授乳期から幼少期を暗い地下で生活していたために、出会った頃はすでにそうだった。
代償というか補完というべきか、ヒュンケルは修行する前にすでに『気』を認識できる逸材だった。
脳内で視覚野とリンクしているのか、『気』をそのまま『色』で認識していた。
初めてフローラに会った後でそのことを知った。
それまでほとんどアバンと会話しようとしなかったヒュンケルが、あの人間はお前の兄妹か、と聞いたのだ。
理由を問うと、白くてそっくりだ、と答える。しばらくは何が白いのか解からなかった。それがよく似た自分たちの『気』の色だと気づいたときの驚きはふたつの意味であった。
何かのアイテムや術を使わないで感知する『色』、それまでアバンはフローラの『色』を意識したことがなかった。
執務室からここまでの移動で、幸運にも誰とも出会わなかった。
たぶん一度くらいはヒュンケルがタイミングをずらして回避したのだろう。『気』を隠すことのできないほとんどの人間は、ヒュンケルがその気になればレーダー並みに周囲を感知できるらしい。
素晴らしい能力に感謝すべきか、こんなことに使わせて悔やむべきなのか。
いつかこの目にメガネをかけさせてみたいな、と脈絡も無くアバンは考えて、振ってくる口付けを許した。

「……ちょっと」
「足りない」

いつの間にかかき合わされていた衣類が剥かれている。
あらわれた肌には先ほどの情交のあとが見えた。いたたまれない。

「入れ替わったりは」
「したいのか」

一瞬アバンは躊躇した。恥ずかしさに気をそらせたいだけで、深く考えての発言ではなかったのだ。
思いのほかヒュンケルとの行為は、ほとんど痛みを伴わない上に快感をアバンに感じさせた。
体がやわらかくて助かる、とのたまった事以外は。
嫉妬かもしれないと思った。自分がほんとうは独占欲の強いたちであることは、アバンも自覚していた。
その言葉は行為に慣れを感じさせたし、事後もしれっと変わらないヒュンケルにもかすかな苛立ちを感じた。
もっとも元々並みの動揺では顔に出すことの無い子供だったが。

「男を抱くのは初めてだっていってましたね」
「よくなかったか」
「良かったですよ、思ったよりずっと」
「俺もだ」

相性はいいらしい、それなら。
他に気をやる余裕もないほどに自分に溺れればいい。
アバンは薄く笑った。





背後からずるりとペニスが肉を割って入ってくる。とても普段のやや体温の低いヒュンケルの肌からは連想できない、体温と思えないほどに熱い塊。アバンの内壁がその進入を感じて伸縮した。最初から快感を与えられたせいか、再びたらされた傷薬の粘液の助けもかりて、2度目の挿入もそれほど抵抗はなかった。
下腹が押し上げられるような感覚と、アナルが痛いくらいにいっぱいに広がっている感覚。
切れるのではと意識の隅で不安がよぎるが、そのあたりは十分に配慮されているらしかった。今のところ流血の惨事にはいたっていない。

「うっ……」

これ以上は無理だという所まで挿された尻たぶが、さらに入り込もうとする力に割広げられて押し上げられる。ずり上がろうとする体を折れてついた肘でこらえると、背がそりあがるようにしなった。
片手で握られている四つんばいの股間からは、固くそった自身から濡れたもどかしい排泄感が伝わる。挿入の衝撃でもれだしたらしい中途半端な快感が腰を焼いた。

「ああ、だめ、だめ……」

深く息をはいて動きを止めたヒュンケルに焦れる。

「凄いな」

アバンは首を振った。自分でも内部がヒュンケルを締め上げてうごめいていると感じられる。どうしようもない。素質があったのか、それともこんなにも愛おしいと感じるせいか、焼けた思考では判別がつかなかった。
普段聞くことの無い快感に濡れたヒュンケルの声や、喘ぎを背後に感じると、背を震えがはしった。それは、それまでのためらいや、年上だからという気負いだかなんだかを吹き飛ばしてしまう威力があったらしい。
どうしようもない。なにもかもが気持ちいい。
動き始めたヒュンケルにあわせて、自然にアバンの腰も揺れた。
ふくらみが括約筋に引っかかるわずかな抵抗の部分まで引き抜かれ、また体がずり上がるほどに押し上げられる。

「んん、うっ、ん、……あっ……あ」

回すようにされると、前立腺がかき乱されるような快感にすくみあがった。
律動にあわせるようにそのたびに、先端からトクトクと少量の精液が溢れてシーツにたれ落ちた。直接の刺激に乏しいせいか、普段の一瞬の快感が、ひどく引き伸ばされたような感覚にアバンは喘ぐ。その間も勃ったままだった。
そのうちに握るだけだった手が、アバンを追い上げようとする動きに引き戻される。終わりがすぐそこまできている。もうぐずぐずに溶けた快楽の中で、ずるりと引き抜かれる感触に悲鳴を上げた。
とっさに力の抜けた体を奮わせて、アバンとヒュンケル自身とを追い上げる手をつかんだ。肘をついた肢体をねじって後ろ手につかむと、決定的な瞬間の刺激を邪魔されたヒュンケルが唸った。

「アバン」

恨めしげな目で睨まれる。アバンにしても後一歩でそれを押しとどめるのには多大な精神的不快をともなっている。しかも無理な体勢で支えていた手を両方とも後ろに回したせいで、頭を直接シーツにつけ振り返り腰を掲げているひどく卑猥な姿を晒しているのだ。

「ど、して……」

執務室でもヒュンケルは外に放った。

「……あんたは、……わかるだろう、中に出したまま何度もやると後がつらいぞ」
「何度するつもりなんですか……」

いたわるような、自分勝手なようななんとも判定しにくい発言に、せっぱつまった状態をわすれて苦笑がもれそうになった。

「ほんっとばかな子」

実際すこし笑っていたらしい、アバンを見おろすヒュンケルが眉をよせて低く唸る。差し止めたヒュンケルの手と重ねた自分の手に、ペニスがびくりと動くのが伝わる。
その手を外すと、自分の掲げられヒュンケルの前に晒されている場所へおそるおそる指を伸ばした。そっと触れるとすられて酷く敏感になった薄い皮膚が、ぎゅっと反応して開閉するのが指先と自分自身の感覚で解かる。
もっと大きなものを含んでいたにもかかわらず、それ以上指をもぐりこませることはできなかった。その光景にヒュンケルが息をのむのが感じられる。

「……もうこれ以上もたなそうだから……ちょうだい」

つぶれた上半身に腕を回され、その腕に完全に力をあずけるとアバンは深く息を吐いた。うなじにヒュンケルの唇の感触を感じ、同時に再び完全に高まった状態のものを挿入される。
より近くなった互いの吐息に、すぐにあの高揚が戻ってくる。

「アバン……アバン……」

名前を呼ばれて、耳を食まれるとより感じた。

「ヒュン…ケル……」

もっと、と言ったかもしれなく、もっとと言われた気もする。
自分のものとも思えない、高い声がどこか遠くに感じられ、ありえないほど深い場所に焼けるような熱を感じた。
食いしめたまま痙攣する体がそっとシーツに落ち、つづくヒュンケルの重みと抱擁にひどく満ち足りた気分で意識を手放した。

 

 

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