暴れん坊JOJO

3. コール


 
やれやれ。ふたたび運転する車の中でため息をついた。
仗助は娘のことを知って、案の定拒絶しようとした。自分自身を。
俺をなじるようなヤツなら、むしろとっくに娘のことも話しただろう。とは言え、あの仗助だから惹かれたわけだ。どこが違っても、こんな風にはならなかったろう。

初めて会ったときもそうだった。
ジジイの変わりに殴られる覚悟で、代理で来た俺に、怒るどころか謝ってきた。髪型で切れまくっていたヤツがだ。
吉良の事件に決着がつき、この町を後にしたあとも、時々メールのやりとりはしていた。当時はまだ仗助はPCも携帯も持っていなかったが、メルアドをねだられた。

「そのうち携帯もてるようにオフクロに交渉するんで、そんときのために」
「ジジイのを聞いておいた方がいいんじゃねぇか?」

本当に聞きたいのはジジイ……父親のじゃないのか?そんな気持ちでからかうように聞いた。そして一瞬、さっと仗助の目をかすめた色に俺は後悔した。そう、後悔だ。
めったにあるもんじゃねぇ、仗助お前には判らないだろうがな。
明るくて、年相応の趣味や遊びに夢中になる、億泰とつるんで馬鹿をやり、俺といるときはどこか背伸びして肩をならべようと必死になってる。いつもスタンドのもつパワーそのままにあふれ出る生命力の輝きがある。
そんなお前が、どうにかすると、俺の一言でチラリと見せる、そのいつものお前と似ても似つかない表情が。おまえ自身気づいて無いんだろうが。

「…ジジイにメールなんて出来んですかぁ?いいんす、ジジイには別のモンもらうんで!」
「手紙にするのか。連絡先渡してなかったか?」
「えへへ、ナイショっすよ!」

お前が垣間見せる「あきらめ」の表情。それを見つけちまうとどうにも苦しい。所詮他人の人生だ、同情や哀れみなんてもんは俺の性質には合わない。そのはずなんだがな。

「え?……イイんすか?」
「なんだ、いらねーのか」
「い!要ります!!ありがとうございます!」

あわてて渡されたメルアドのメモを、内ポケットにしまいこむ仗助に苦笑する。
憐れみ、か。おまえにはぴったりだな。その優しさで、お前は周りを守り、憐れみをたれる。損なわれたものを取り戻す。
そんな精神の力を得てきたなかで、おまえ自身はいったいいくつのことを「あきらめ」て来たのか。

しばらくして携帯を持った仗助が、時折メールをよこした。そう、時折、おそるおそるって感じだ。
書かれている内容は、町のことや、周囲の人間のことが多かった。まるで定時報告書のようだ。それに自分でもとても愛想がいいとは言いがたい、そっけない返事を送りながら、考えていた。
どうして自分はあの時メールアドレスを渡したのか。
どうして仗助の望みを叶えてやりたいと、そう思うのか。
どうして、あんなカオをさせたくねぇ、と仗助の顔ばかり思い出すのか。
振り返ってみれば、杜王町に滞在中も、普段の俺にくらべてずいぶんと世話をやいていなかったか。

" 俺は誰とメールをしているんだ、仗助。お前のことを話せ。お前は、
今何を思っている "

だからそんな風に返事を送った。返事がくる気配はなかった。
元々気が長い方じゃねぇ。俺は仗助の携帯にコールした。考えてみれば、番号を知らせるために仗助がかけてきて以来だった。
ずいぶんとコール音が繰り返されたが、俺は切るつもりは一向になかった。

「……」

やっと繋がった回線は、音をよこさなかった。

「仗助」

一瞬向こう側で息をのむような音が聞こえたようだった。

「泣いているのか?」

何があったとは聞かなかった。俺の言葉はお前を傷つけるだけだったか。

「仗助」
「……ずりぃ」

やっとか細い声が応えてきて、俺は笑った。

「大人だからじゃねぇか?オラ、言ってみろ仗助」
「……」
「やれやれ、強情だな。電話ってのはじれったいな、直接見えねぇ分言葉にしなきゃ判らねぇ」

ガキの強がりだ。泣き声なんてかっこ悪くて聞かせられねぇ、けど声が揺れるのが抑えらんねぇ、そんなトコか。

「だったら……」

むりやり作ったみたいな仗助の声に、目を閉じる。その声だけに感覚が支配される。

「会って……確かめりゃいい……ス」

そうだ、そうやって手ぇだしな。あきらめる必要はねぇぜ。俺は何をお前の手に載せてやれるかな。

「そうだな」

手を握ってやるくらいなら、出来るかもしれねぇな。
お前はそれを望むか?

結局、再会は仗助が進路の準備のために東京に来るまで、2年近く待たなくてはならなかった。  

 

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