暴れん坊JOJO

7. Shop of JOJO


 
「ありがとうございました!……またよろしくな」

ひと段落の最後のお客さんを見送って店内に戻るとのびをする。場所柄、やっぱり昼間は主婦が多いから、昼時はこうして落ち着くことが多い。

JOJO Diamond

これが俺が持った城の名前だ。JOJO ってのは承太郎さんの若い頃のあだ名で、Diamond はもちろん、俺のスタンド『クレイジーダイアモンド』から取った。
初めて会った時、俺がやんちゃな先輩たちに「ジョジョ」って呼ばれてるのを聞いてたって言われた。俺にしてみれば、気になるようなことでもなくって、そんな話をふられた頃はもうそんなこと忘れてたんだよな。
ジョジョって呼び名は因縁だな、って言う承太郎さんに理由を聞いたら、俺と同じ年くらいのころは「ジョジョ」って呼ばれてたって。
現金なモンで、そういう風に聞かされたら、「ジョジョ」ってのはトクベツになった。

俺が最初に美容師になろう、って決めたときは、承太郎さんを意識してはいたけど、それでもこんな風に一緒にくらして、独立して店を持つなんてもちろん考えてもいなかった。
そこそこの店で勤められていたらいいな、将来はちいさな店が持てたらいいな、っていう程度だった。
予想外にいろんな経験が出来て、杜王町に帰るとなったときに、思い切って開業しろって勧めたのは承太郎さんだった。
資金源はじじい ---- 俺の父親で、承太郎さんの祖父ジョセフ・ジョースター。生前分与ってやつで。
俺はかなり抵抗があって、承太郎さんの提案とはいえ、すぐにウンとはいえなかった。っていうか、言ってないかも結局。
たしかに承太郎さんって、すげー落ち着いてて大人って感じなのに、思い立って決めちまったら有無を言わせねぇ、ってとこはあるなっていうのは思っていた。

「決めたぜ、すこし手を入れなくちゃならねえが」
「は?」
「話しただろう。ちょうどいい物件が出ていた」

まだ1年くらい前だ。そのころ俺は有名店にいた頃のツテで、かけだしのくせに憧れのイタリアのショースタッフのはしっこにいた。
ヴォリーズだか、なんだかって、俺にはさっぱり意味不明な解説をされたのは、ショーの仕事を終えて、承太郎さんとおちあったチヴィタヴェッキアのレストランだった。
有無をいわせねぇどころじゃねぇよ。そんなスキありゃしねぇ。

「承太郎さん、俺やっぱり自分で……」
「金も時間もあの世に持っていける訳でもねぇ、あるモンは有意義に使うもんだぜ」
「けど……」
「……仗助、俺の帰る場所になる、なんてぇ大見得切ったのを忘れたわけじゃぁねぇだろうな」

ぐうの音もでねぇってヤツだ。いや、はなっから承太郎さんに勝てるなんて思っちゃいないけど!
ああ、俺ってどうして承太郎さん相手だと気合はいっちまうのかな。言った意味はちっとも後悔してないけど、言ったことは直後から後悔しました。ハイ。
それに待たせちまってる、って自覚があるから、どうにも承太郎さんが「したい」って意思表示をしちまうとどうにも弱いんだよな。オレ。


昼めしどうすっかなぁ。
俺は階段を上がって2階の居住スペース、書斎で仕事をしている承太郎さんのところにいった。
承太郎さんは大規模な合同調査の予定があって、今はその準備と、大学の講座の準備、論文、とかなりデスクワークのラッシュにあっていて、1日の大半を書斎ですごしている。
徐倫もずっと承太郎さんの近くにいて、自分のノートに何か文字や絵を書いたり、持参していた絵本を飽きずに何度も読んだり。
かといって、このふたりで何かしてるって訳でもない。承太郎さんもなぁ。

″承太郎さん、じょーりんちゃぁん、昼何食べたいっすか〜? ″
″・・・・・・ ″
″・・・・・・ ″

シカトね。ああ、そう。まぁ予想はしてたっスよ。
しかし予想してたって、むかっとクるもんはクるんだよなぁ。不思議だなぁ。
俺は腰にこぶしを当てて、ふたりをナナメ下に見下ろした。

″返事がないってことは、バケツプリンだって文句は言えねぇってことっスよね ″
″サンドイッチ ″
″・・・・・・ ″
″却下! ″

にゃろう。また仕事しながら適当に済ませたいって意図がミエミエだぜ!
俺はばたん、とドアを閉めてキッチンへ移動した。
冷蔵庫の中身を見ながら考える。うーん、徐倫もいるしスパゲッティが無難かな。俺としては焼きうどんって気分なんだけど。
準備して、また書斎へ呼びに行くと、意外とすんなりダイニングに出てテーブルについてくれる。やっぱりこのあたりは、徐倫のこと気にしてるんだろうな。いつもなら、書斎に持ってこさせるくらい平気でするからな、この人。

″いただきま〜す ″
″いただきます ″
″・・・・・・ ″

無言で食べ始める徐倫に、俺はこっそり肩を落として食べ始めた。
初めて徐倫がやってきた夜から、もう5日経ったってのに、徐倫は俺に対して一言もしゃべらない。
徐倫が来てからは、疎外感を与えないように、家の中は承太郎さんと俺だけの会話だろうと英語オンリーになってる。だから、言葉が解からないからって訳ではもちろんない。
そりゃぁなぁ。おふくろさんが徐倫を置いてアメリカに帰っちまって(近くドバイに移住するらしいけど)、父親に連れてこられた異国の家にはよくわからねぇ男が一緒に暮らしてる。口なんかききたくねぇよな。
徐倫のことだけでも気が滅入るってのに、承太郎さんが日に日に不機嫌になっていくのも俺を悩ませる。
こっちはしょうもない理由がはっきりしているんで、今んとこは放置してるけど、あんまり長いことほっとくと俺がヤバイんだよなぁ。

徐倫が来てから、承太郎さんに触らせてない。

承太郎さんは徐倫の目にふれなければ問題ないって、あきらかに思ってるけど、俺にはどうも落ちつかないんだよ!
初めて見た俺を承太郎さんは徐倫に ″パートナー ″だって言ったんだ。
もちろんまだ5歳だっていう徐倫に、てめぇの父親がゲイになっちまてて、なんてのは解からないだろうけど。
でも、今の承太郎さんがいっしょにいるのを選んだのは、おふくろさんじゃなくて、俺だってことはわかってる。子供だってそういうのは、よくわかるんだ。
だからそんな俺にまったく返事をしないってことは、承太郎さんの ″パートナー ″として認めていないって、精一杯のアピールなんだ。
それなのに、見ていないところだってなんだって、ムリだって!!承太郎さんの肝っ玉てどうなってんの?!
承太郎さんは承太郎さんで、俺の拒絶がまったく納得がいかないらしくって、日に日にイラついてるのが解かる。なんだかんだ言っても、俺が承太郎さんの「したい」って何かに、折れないってことが今まで無かったんだ。
そのイラつきがのっかった行為が怖えぇ、って悪循環。

無言のまま食べ終わって食器を流しに運ぶと、徐倫はまた書斎に入る。閉まるドアを見ながら、俺はこんどこそため息をついた。

″このまんまでいいわけねぇもんな、なんとかしないとなぁ ″
″おまえ自身のためにそれを勧めるぜ ″

頭を抱える俺に承太郎さんの容赦ない言葉が降ってくる。
恨めしく腕の下から見上げると、予想外にやさしい目で見られていてたじろいだ。

″頑張れるか ″

そうだよな、徐倫の傷を一番心配しているのは父親であるこの人なんだから。

″まかせてください。頼れる男、仗助っスよ ″

俺は世界中で一番、この父娘の幸福を願う男なんだから。
 

 

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