暴れん坊JOJO

11. 百獣の王と甘い蜜(NC-17)


 
俺のベッドはサファリパーク。 

そんなろくでもないフレーズが浮かんできて、俺は抱えていた膝に顔をうずめた。
ベッドに膝をかかえて座っている俺の横では、腹のくちたライオンが満足げにごろ寝をしている。
理想的な筋肉は肉食獣のそれで。獰猛なほどに色っぽい。伸びをするしぐさもしなやかで、美しい百獣の王。 

「まだスネてんのか」 

うう、と唸っている俺に呆れたように声をかける百獣の王もとい、承太郎さんの伸びた手をぺちりとはたき落とした。
洗いざらしのクセっ毛とパジャマにおおわれた膝の隙間から、俺は恨めしげな視線を承太郎さんに送る。
いや、俺だって今さらヤッたことをどうこう言うつもりはねぇよ。
承太郎さんはちゃんと俺のことも気持ちよくしてくれるし、配慮もしてくれてる。同性との行為は俺が初めてだって言ってたけど、もとより奥さんはいたし、モテねぇはずのない人だ。
最初ッから上手かった。
けれど、そんな承太郎さんだってどうしようもねぇし、こればっかりは解かるわけない!
尻の痛みなんて!
むりやり引き伸ばされて、捲り上げられた入り口も、さんざん擦られた内側も、熱をもってジンジンするし。うずくような痛みが、覚えこまされたあの人のモンを何度も思い起こさせる。
だいたいあんな太くって、長さもあるモンが、すげえ速さで出入りする場所じゃねぇ!
そもそも出口であって、入り口じゃねぇっての!上手いヘタ以前の問題だぜ。
初体験は18歳だった。3年経って、会えない隙間をぬっての交際とはいえ、そこそこ数も重ねてきたけど、尻の穴なんて鍛えられる方法なんてあるはずない。イヤ、あっても嫌だけどよ。
俺も若かったよな。つーか、ケナゲ?
男同士とはいえ、意識しまくりの相手の股間なんて、恥ずかしくって直視できなくて。
それが幸いしたっつーか?運のツキっつーか?
いやマジ、エレクトした承太郎さんのイチモツ見てたら無理だったな。多分。 

「いい加減にしろ。せっかく手加減してやったのに、さっさと寝な」
「ぎゃーー!」 

唸ってばかりで縮こまったまんまの理由なんて、解かるわけのない承太郎さんが、速攻で俺の足首を引っつかんで引きずり倒した。 

「おいおい、なんて声出しやがる」 

承太郎さんが片方の眉を上げて、俺の顔を覗き込んだ。そして、涙目の俺を見てしかめた眉をといた。 

「ほっといてください!尻と前とが痛いんスよ!」 

大体手加減て、あれでかよ!2回したし!
久しぶりだったせいか、いつもより激しかったし、2回目なんかけっこうネチっこく遊ばれた気がする。
男同士なんで、勝手知ったる生理ポイントってやつだ。ペニスもさんざん責められて。
自分の手のように手加減も出来ねぇ。承太郎さんの手はけっこうきれいだ。少し節のたったところが男っぽい、でもしなやかな手をしてる。それでも容赦なく敏感なところをくじられるのは刺激が強いし、何より、最中は承太郎さんの手に捕まれているってだけでも相当な上、自分の手じゃない刺激は全部快感に変わっちまってる。
熱がいつまでも引かねぇようなカンジ、過剰に敏感になっちまってるってのは後になってから思い知らされる。
下着に擦れるのもツラい。すっごく痛いってわけじゃないけど、どうにもいたたまれない種類の熱だ。寝れるわけねぇ。

「……そりゃ、悪かった」
「やっぱ、俺、自分のトコで寝るんで」 

タッパのある俺たち向けの、海外規格のセミダブルサイズのベッドがふたつ並んでいる寝室。
流石にベッドひとつってのは抵抗があって、ここは俺もケチらなかった。
承太郎さんは一緒のベッドの相手が起きていると眠れねぇタチみたいだから、こんな状態の俺が一緒じゃ寝れねぇもんな。

「っってぇ!何すんスか!」 

隣のベッドに移ろうと体を起こしかけたところで、のびてきた手に下着ごとパジャマの下を引き下ろされた。
こすれた刺激に思わず股間を抑えて丸くなる俺の足元から、パジャマを蹴り落とされる。うう、イテぇっつってんのに!承太郎さんのバカ! 

「こすれるのもツライんだろう。脱いじまえ」 

そのまま抱き込まれて、向かい合った首の下を承太郎さんの腕が通って、後頭部を撫でられる。
引き寄せられた腰を、反対側の手がゆるゆると撫でる手はやさしい。反射でびくりと引いた腰をなだめるように、でも離れるのは許されなくて。
たしかに、これならまぁ、当たるモンもねぇし、ちょっと楽、かも?
ケド、すぐに自分のカッコに思い至って、耳が熱くなった。俺は寝るときはパジャマをたいがい(意識が飛んじまったりでもしなけりゃ)着て寝るタイプだ。で、承太郎さんはどっちかってぇと下着だけとか、下だけでいいってタイプ。
つまり、今の俺はパジャマの上だけで……。 

「ひぃーーー」
「おいおい今度は何だ」
「え、いや、なんでもないっス!」 

ものっすっごく恥ずかしい状態じゃね?
いや、厳密にはひとつのパジャマを分けてる訳じゃないんだし!こ、これは事故だしな!そうそう。
承太郎さんだって、意図してやってるわけでもなし、俺気にしすぎだろ!大体布団の中なんて見えるわけじゃないんだし。
頭を撫でていた手が、赤くなった俺の耳を軽くひっぱる。 

「何、熟れてんだ」

顔をあわせるのが嫌で、俺は思わず承太郎さんに腕をまわしてすり寄ると、肩口に顔を伏せた。
無理、顔見たらなんか口走りそう。 

「実は足りねぇのか」
「な、訳ないっしょ!!」
「じゃあ、何を意識してんだ」
「してないっつーの!って、触んないでくださいって、あ!もう入れさせねーかんな!」 

完全に遊んでんな!承太郎さん、このヤロー!
承太郎さんの胸につけた額から、かすかな振動がつたわってくる。笑ってるし! 

「悪かった。夢中になりすぎた。入れねえよ」 

ささやかれた言葉は、それでもからかってる色が無くって。くそ。反則なんだよ、あんたって男は。
しょうがねえよな、俺も悪いんだ。こんな論外な人を俺が受け止めてやれるってことを、ちこっとでも嬉しいって思っちまったんだからな。あーあ、これが惚れた弱みってヤツ?

「徐倫に」
「……ん?」
「どうしてジョセフじじぃの話をしなかったんだ?」 

俺は閉じていた目をぱちりと開いた。 

「仗助、お前は昔の自分に、徐倫の今を重ねたんじゃねぇのか?」 

そうだ、だから海を眺める徐倫がもどかしくてたまらなかった。でも、徐倫と俺とじゃ全然違うトコもある。
徐倫とオフクロさんの間には、絆や思い出がある。それは、確実にあの海の向こう側に在る。けれど俺とジョセフ・ジョースターの間にあったものは、憧れでしかなかった。写真ひとつ無い想像だけの存在。
どんなに思っても、届かないものがあるんだって。思い知らされて、諦めきれたんだ。
それなのに、届かないはずの想いが届いてしまって。 
俺は返事を待ってくれる承太郎さんの目を見つめた。 

「徐倫はやっぱ、承太郎さんに良く似てるよ。あの目とか強い意思っつーか、意地?とかさ」

 その届かないはずの手をとって、諦めるんじゃねぇよって、俺に言ってくれた人にそっくりなんだぜ。 

「だからさ、俺も男ッスし、同情とか、じゃなくて。なんつーか、惚れて? んで心を許して欲しいなぁ、なんて」
「バカだな」
「そーっスよね。口説けてねぇし」 

そうだった、尻が痛いとかいってる場合じゃなかった!どーすんだよ俺!
徐倫のことは全然解決してないし。って、

「ああ!また日本語になっちまってるっ」
「なんだ、やっぱり……」
「誰がプレイの話なんかしてんすか!ってワザとでしょ、あんた!」 

この1週間、日本語の出来ない徐倫が疎外感を味あわないように、ってふたりのときも日本語禁止だったのに。承太郎さんが迎えにきてくれたあんときは、うっかり素が出ちまって。で、なし崩しにヤッちまって。
うっかりあれ、英語にしなきゃ、って思い出したのが悪かった。
久しぶりの生餌(?)に上機嫌の王様は、英語で2回戦に突入した。
いや〜〜、だってさ、海外で会った時だってふたりの時は日本語だったし。承太郎さんほど、身に馴染んでるって訳じゃない俺にしては、なんつーか意識しちまって。
なんか別人みてぇな?ううう、俺ってバカ。 

「それはもういいぜ」
「ちょっと、まってくださいよ。そりゃ、デカイこといってまだちゃんと話せてもいないけど……」
「誰がそんなことを言っている」
「は?」
「口説いてるつもりだったとはな」
「え?」
「どうやら俺では足りねぇらしい」
「え?」
「俺もせいぜい頑張らねぇと」
「ええ?!」 

スイマセン、承太郎さん、ぜんぜん話が見えてねぇんスけど。
たしか今、あんたの娘の話してましたよね?アレ?
これって、このカッコってどゆこと?
俺の上に覆いかぶさるようにして、上半身を起こした承太郎さんの目が、薄ら笑いの張り付いた口元に反して、全然笑ってねえんスけど!
明らかに捕食者の顔で、俺を見下ろす承太郎さんの顔は、悔しいほどに男前で。

 承太郎さんに二言はねぇ。俺はたしかに入れられなかったけど。痛いほうほうがマシって、思っちまうほどに、とろとろに溶かされて。
気持ちよくて、苦しくて、涙も涎もなんもかんも啜られて。
マジ思い出したくないような、恥ずかしいコトばっかり白状させられた。 

『承太郎さんが聞いてくれるから』

 俺のバカなとこも、弱くて、臆病なとこも、何もかもさらって、喰らって。ひとかけらも残さねぇつもりなんだぜ、この人は。

 とんだ悪食な俺の王様だよな。   

 

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